ロナルド・A・ノックス『閘門の足跡』
B+
Knox, Ronald A..The footstep at the Lock.門野集訳,新樹社,2004.252p.

 1928年の作品でテームズ川の川下りが舞台である。
 デレックとナイジェルは従兄弟であるが,それぞれの親は,早くに亡くなり,祖父の遺産を受け継ぐことになっている。また,大叔母の遺産も手に入る。ただし,デレックが25歳まで生きていれば祖父の遺産はデレックのものであるが,それ以前に死んでしまうとナイジェルに行くことになっている。二人とも放蕩の限りを尽くし,仲も悪い。心臓の良くないデレックは,巨額の生命保険をかけていたが,保険会社の医師から新鮮な空気が必要だから川旅をするよう勧告される。デレックが同行を求めたのは犬猿の仲のナイジェルだった。もう先のない大叔母は,二人が仲の良いところがみたいと言っていたからである。こうしてテームズ川をボートで下る旅が始まったが,シップコート閘門を過ぎたところでデレックは失踪,やがてナイジェルも姿を消す。保険会社の調査員ブリードンはその妻とともに調査を始める。
 このミステリの良い点は,イギリスの川下りの快適さ,風景の美しさが伝わって来る点と辛辣で皮肉な文章,そしてブリードンの妻アンジェラの造型にある。一方,欠点としては,写真やボートにあいた穴などの物的証拠,暗号,アリバイ,指紋など小道具が多すぎることと,犯人の知力がどの程度なのか判然としないことが上げられる。証拠を覚えているのはかなり困難である。しかし,筋書きはほぼ予想でき,もっぱらブリードン夫妻の会話や風景描写を楽しめばよい。 

[索引]