ペルー音楽

――ムシカ・クリオーヤへの誘い――

山口 尚孝

ムシカ・クリオーヤの音、リズム、その起源

ペルーを最初に訪れた時、タラップを降りると油とゴミの混じった発展途上国特有の匂いを嗅ぎました。リマ歴史地区のアバンカイ通りでは、決して晴れることのない冬の霧の下、黒い排気ガスを撒き散らすバスが行き交い、通りの両脇にはリヤカーに青いビニールシートをはった露店がひしめき合っていました。そこには違法コピー海賊版テープを売るカセットテープ屋から流れるビートの利いた都会的なワイノ(リズム形式の一種)が周囲の迷惑(日本ならばそうなりますがペルーではそうではないらしい)も省みず町をにぎやかにしていました。今思えば流れていた曲はリマに移り住んだ山岳地方の出身者もしくはその二世・三世達が好んで聴くチチャ音楽でした。チチャ音楽はこの一見混沌としたリマに実に似合った音楽だと思います。

そんな一見理解不能な世界に面白味を感じ、旅行だ仕事だ調査だといって毎年のようにペルーを訪れるようになってしまいました。10年たった今、アバンカイ通りの露店も立ち退きによりなくなり、経済発展のせいか(90-97年のGDP成長率は年平均7%!)黒煙を吐きながら走る車両も減りました。リマのホルヘ・チャベス空港に降りると改装された清潔感の漂う回廊を歩き、入国審査場に行きますが天井のスピーカーからはリマ・弦楽オーケストラによるペルーワルツの名曲が優雅に流れています。リマの伝統を代表する音楽はワルツなどのクリオーヤ音楽。もしリマに行くことがあったら耳を澄まして聴いてみてください。喫茶店で流れるラジオからはサルサやボレロ以外にもこのムシカ・クリオーヤが聞こえてきます。

ペルー音楽 というとすぐ思い出される曲が「コンドルは飛んで行く(El Condor Pasa)」ですが、ペルー音楽はそれだけではありません。

もし、首都のリマにでも行く機会があれば町で流れるラジオの音に耳を傾けてみてください(物好きでない限りペルーには行かないと思いますが)。ワルツのリズムと心地よいメロディーが聞こえてきます。リマや海岸地方の町にはアンデス山岳部地方とは違ったムシカ・クリオーヤがあります。

リマや海岸地方の町にはアンデス山岳部地方とは違ったムシカ・クリオーヤがあります。

日本でもブラジル音楽は言うまでもなく、サルサ、メレンゲ、クンビア、タンゴそしてアンデスフォルクローレなど中南米の音は気軽に聞くことができますが,ペルー音楽が好きという人でもアンデス地方の音楽しか知らない人もいるようで、ムシカ・クリオーヤの認知度はまだまだです。本レポートはペルーの多様性について知ってい頂く一環として、「ムシカ・クリオーヤ(Música Criolla)」について概観を整理しておこうと思います。

ムシカ・クリオーヤとは

リマに着いたらまずラジオをつけてみよう。FMチャンネルのどこかでワルツのリズムに日本で言うならば演歌の乗りの熱唱が聞こえてきます。それがムシカ・クリオーヤの代表的形式バルスです。生の音を聞いてみたいと思ったらペーニャ(飲みながら演奏や踊りを見られる店)に行くのもいいし、もっと気軽に味わってみたいという人はリマ歴史地区ならばプラサ・ウニベルシタリオ(アバンカイ通りとグラウ通りが交差するところの近く、反対側には教育省の緑色のビルがありこれが目印)円形劇場やミラフローレス区ケネディ広場円形劇場で土日夕方催される無料野外コンサートに行くといいでしょう。円形広場の真ん中には演奏に合わせてワルツをそれぞれのスタイルで楽しむ市民の姿が見られます。マリネーラが演奏されるときには踊り手が登場することもあります。ワルツよりも動きは速く、男性はサパテオという馬の足さばきを表現したようなステップを見せます。女性の方はスカートの大きな専用ドレスを着て優美に踊り、男女ペアで踊られます。

円形劇場コンサートも黒人音楽のバンドの出番になると真ん中で踊る市民はわずかになってしまいます。黒人系の踊りはバルスやマリネーラとは体の使い方が違い、腰や背中を官能的に震わせます。リズムも複雑なため素人では音楽にステップを合わせることさえできません。

このようにムシカ・クリオーヤには多様な形式があるとをご理解いただけたと思います。ムシカ・クリオーヤは明確な定義はされていないようですが、シエラ(山岳地方)及びセルバ(熱帯雨林地方)のフォルクローレに属さない海岸地方の音楽(música de la costa)と捉えられているようです。

リズム及び舞踏に基づいた形式としては下記のように大きく整理できます。

  1. バルス/valsとポルカ/polka

  2. マリネーラ/marinera(トンデーロも含む)

  3. 黒人音楽/música negra (música afroperuana)

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